山口県は2024年11月21日、東京・大手町で「やまぐち企業立地フォーラムin東京」を開催した。
古くから瀬戸内海のコンビナートを中心とした重化学工業で栄えた山口県には今、豊富な工業用水など蓄積された産業インフラを生かし、半導体関連産業の集積が進んでいる。新たな産業構造の中でこれから存在感を増していくであろう山口県の事業メリットとは何か、フォーラムの様子を紹介する。

開会あいさつ

山口県知事の村岡です。
本日は、皆様、大変御多忙のところ、多数の皆様にご来場いただきまして、やまぐち企業立地フォーラムが盛大に開催できますことを大変うれしく思います。
さて、ご承知のとおり、世界経済は高インフレの落ち着きなどを背景に底堅い成長を維持し、国内経済は景気の踊り場を抜けて持ち直しの動きが見られるとされています。
また、企業の設備投資もデジタル化、脱炭素、サプライチェーン強靭化への対応や人手不足への対応などを背景に、拡大傾向が続くことが見込まれています。
このため、私は、安心で希望と活力に満ちた山口県、その実現に向けまして、県の総合計画として作っている「やまぐち未来維新プラン」に「時代を勝ち抜く産業力強化プロジェクト」を掲げ、
戦略的な企業誘致、そして産業基盤の整備を積極的に推進しています。
それとともに、分野別の計画である「やまぐち産業イノベーション戦略」では半導体や蓄電池分野を重点成長分野へ追加し、急速に変化をする社会経済環境への対応を行っているところです。
こうした中、世界的な半導体需要の拡大を背景に、半導体の部素材や製造装置等の関連産業が集積をしている本県においても、近年、関連分野の設備投資が活発化をしております。
私自らもトップセールスを行うなど、積極的な誘致活動を展開しておりますが、昨年には過去最高の設備投資額を実現しました。
今日のこのフォーラムは、こうした取組の一環として、本県の強み、そして潜在力を、日本のビジネスの中心である東京でしっかりとPRをさせていただくものです。
このフォーラムが皆様の今後の事業展開を考える上でのご参考になりますこと、さらには、将来、山口県にご進出をいただくきっかけとなりますことを心から願っています。
基調講演半導体産業への期待と技術開発動向
基調講演には産業技術総合研究所(産総研)の半導体関連のリーダーである安田哲二氏が登壇し、半導体産業の状況を踏まえて国の戦略を語った。

兼 エレクトロニクス・製造領域長 安田 哲二氏
はじめに
産業技術総合研究所(産総研)は経済産業省の傘下の独立行政法人です。経産省の下には様々な独立行政法人がありますが、その中で鉱工業に関する研究開発を行なっているのが産総研で、国内では最大級の研究所です。私はエレクトロニクス関係を担当しており、経済産業省と半導体の産業や技術の動向などについて議論しながら研究開発に取り組んでいます。実は私は山口県下松市の出身なのですが、産総研の立場を離れて個人的に日頃から感じていたことを申し上げると、山口県は半導体関連の産業に適した場所なのではないかと思います。今日の講演が少しでも立地をお考えの皆さんの参考になればと思っています。
半導体市場の状況
半導体の世界市場の規模はデジタル革命の進展に伴い、右肩上がりに成長し2030年には約100兆円になると言われています。現在、日本のGDPの中で半導体が占めるのは1%程度ですが、すでに半導体抜きでは世の中が成り立たない状況です。半導体の技術を確保し、生産能力を確保し、サプライチェーンを安定したものにするというのは、非常に重要なことです。
サプライチェーンの安定化に向けて
半導体産業における日本の状況を振り返ってみます。半導体市場の地域別のシェアの推移を見ると、日本の半導体が一番強かった1990年頃は50%近くあった世界シェアが、今では10パーセントを切っている状況です。一方でアメリカは50%のシェアがありますが、これは自国で設計し国外のファウンドリ等で製造したものを含めての数字です。
日本のシェアが10パーセントを切るところまで下がったのはマズイとよく言われますが、製造能力ベースでシェアを見てみると韓国と台湾が21パーセント前後でほぼ同率、3位が中国で日本は4位の13.5%パーセントです。韓国、台湾の2/3程度の製造能力を実は日本は持っているのです。米国の市場シェアは50パーセントですが、製造能力だけ見ると日本より低く11.7%です。「日本の半導体は衰退した」と言われますが、実は製造能力自体は結構あるのです。さらに装置や材料に至るともっと強いところがあります。日本の装置のシェアは30%程度、材料では50%のシェアがあるのです。
では日本に何が欠けているのかというと、先端ロジックの製造と、それができた後に密度の高いパッケージングをしていく所。ここが日本にまだないところです。また先端世代を生産できるファウンドリもありません。これらに対応しようとしているのがラピダスの取り組みです。
また、日本で半導体を使ってイノベーションを起こしていく上でのもう一つの課題は、設計人材の不足です。半導体を使って何か新しいイノベーションを起こそうとすると、それに応じたチップの設計が必要ですが、日本はその設計ができる人材の層が薄いのです。ここを強化していくことも重要です。
エネルギー問題と低消費電力化
次にエネルギーの状況を見てみましょう。直近10年でインターネットに流れるデータの量は約10倍になっています。データの生成量についても調査会社の推計によれば指数関数的に増加しており、一人当たりに換算すると現在は1TBのストレージを一人が1.5か月で満杯にしている状態です。データを処理する計算量も生成AIが登場してから非常に増えてきています。
このようにデータの生成・流通・処理が増えてくると心配なのはエネルギーの問題です。日本の総発電量は1兆キロワットアワーと言われています。そのうちデータセンターで使っている電力は現在200億キロワットアワーで全体の2パーセントです。データは10年で10倍といったスピードで増えていますので、消費電力がこれに比例してそのまま伸びていくと大変なことになります。
これをなんとかするためにはデータセンターやネットワークの低消費電力化を進めねばなりません。過去においてはトランジスタを微細化することで省電力化してきました。トランジスタのサイズを1/2にすると電力は1/4に減るのです。しかし現在は微細化が物理的な限界に近づいており、解決策の一つとして光電融合といったフォトニクスの活用が期待されています。
経産省「半導体・デジタル産業戦略」
こうしたなか、国はどのような戦略を描いているのかについて、経済産業省の取り組みを見てみましょう。経産省では半導体・デジタル産業戦略検討会議を2021年から開催しています。議論の結果として、半導体情報処理基盤、高度情報通信インフラ、蓄電池などの産業に関して、今後の政策の方向性を定めた「半導体デジタル産業戦略」を2021年6月に公表しています。
この戦略は3段階になっていて、第1段階が「IoT用半導体生産基盤の強化」。これの代表的な取り組みは熊本でTSMCを誘致してソニー、デンソー、トヨタが参加して行なっているロジック半導体の供給力の確保です。第2段階は「日米連携強化」です。日米連携プロジェクトで次世代半導体技術を習得し、国内で確立させていきます。北海道の千歳市でラピダスが次世代半導体の量産製造拠点を米IBMとのパートナーシップにより確立する動きはこれにあたります。第3段階は「グローバル連携」で、光電融合などの将来技術をグローバルな連携の中で実現して実装していくものです。
こうしたステップを実現していくために政府からの企業等への助成や委託がなされ、戦略が実行に移されています。また戦略の中には半導体人材の育成のことも記されています。産学官が連携した地域単位のコンソーシアムが九州、東北、中国、中部、北海道、関東で立ち上がり、次世代半導体の設計・製造基盤の確立を図るべく人材育成が進んでいます。
産総研の取り組み
こうした戦略の実現に貢献すべく産総研は活動しています。産総研のミッションは「社会課題解決」と「産業競争力強化」です。ここで言う社会課題の解決とは、エネルギー・環境制約への対応、少子高齢化への対応、強靭な国土防災への貢献、防疫感染症対策などを指します。こういった課題を解決しつつ産業競争力の強化に貢献するのが産総研の使命です。このミッションを全国12の研究開発拠点で進めています。
半導体関連の研究開発は、大きく分けると三つの方向性があります。一つ目は三次元化を取り入れつつ引き続き高集積化を追及すること。これが一番注力している取組です。二つ目として、量子計算や脳型処理といった、新原理や新アーキテクチャによる情報処理があります。従来技術では超えられない限界に挑戦する取り組みであり、非常に重要な研究領域になっています。三つ目は最新ではないレガシー世代のテクノロジーであっても、設計や製造をより柔軟・迅速に行うことで、多様なニーズに対応して様々なイノベーションを起こそうという方向性です。
産総研ではこれら3つのそれぞれの方向性で研究開発をしています。近年とくに力を入れているのは、我々自身が研究開発をするのは勿論のこと、研究開発のために整備した施設や研究開発の成果である知財を産業界に使っていただき社会実装することです。一例として、産総研のつくば西事業所では最先端デバイスが試作できる共用のパイロットラインの整備を進めています。産総研のコンソーシアムに参加する企業は、開発しようとする新しい装置や材料の技術検証をこのラインを活用して行えるようになります。
産総研は、回路設計からウエハープロセス、パッケージまで一貫して行うことができ、かつ研究開発だけでなく社会実装、さらに人材育成まで一体的に実施できるような拠点の構築を目指していきます。
以上をまとめますと、半導体はグリーントランスフォーメーションや経済安全保障の基盤であり、経済産業省の戦略のもと、半導体産業の成長と関連技術の発展を目指して様々な取り組みが進行中です。産総研はこの戦略の実現に貢献すべく、産学官のプレーヤーによるオープンイノベーションを推進しています。
終わりに
最後に産総研の研究者というよりも山口県出身者として申し上げたいことがあります。山口県の偉人に村田清風(1783~1855年)という人がいます。長州藩主の毛利敬親に抜擢されて、藩の財政改革の第一人者として活躍し、この人の後継者がさらに人を育て、吉田松陰や高杉晋作などが長州藩から出て明治維新につながったと言われています。この清風が二十歳の時に初めて富士山を見た時に詠んだ短歌があるのですが、その上句は「来てみれば聞くより低し富士の山」というものです。富士山は非常に高い山だと聞いていたけれど実際見てみると案外低い、という句です。評判が高いけれども実際に見てみるとそうでもないということはよくあることですが、逆に言えば、今はあまり注目されていないけれど実際に来てみると案外いい、ということもあるでしょう。今日のフォーラムを通じて、皆さんが半導体の企業立地をお考えになるにあたって、「来てみれば聞くよりも良し山口県」と言う風に思っていただければ大成功と思っています。
パネルディスカッション山口県の産業インフラと事業メリット
フォーラムの後半では「山口県の産業インフラと事業メリット」をテーマにパネルディスカッションが行われた。実際に山口県で操業するセントラル硝子の代表取締役社長執行役員・前田一彦氏と日立ハイテクの常務執行役員・小室修氏が村岡知事とともに登壇。地元テレビ局出身で現在は東京で活躍するフリーアナウンサーの原千晶氏がモデレーターを務めた。

- セントラル硝子(株) 代表取締役社長執行役員 前田一彦氏
- (株)日立ハイテク 常務執行役員 小室 修氏
- 山口県知事 村岡嗣政
- フリーアナウンサー 原千晶氏(モデレーター)
山口県の概要
- 原
- まずは山口県についてご紹介をお願いします。
- 村岡
-
本県は、本州最西端に位置しており、三方を海に開かれ、温暖な気候、優れた自然景観をはじめ、数々の歴史上の舞台に登場し、往時を偲ばせる史跡や文化、そして良質な温泉に恵まれています。三方が海に開かれているので海の幸が豊富です。ふぐは山口県を代表する名物で、取扱高日本一であることは有名ですが、実はアンコウやアマダイも水揚げ量が日本一なんです。近年では、地酒も有名で、今や世界的にも評判になっている「獺祭」は有名ですが、萩市の「東洋美人」、岩国の「雁木」なども人気があります。私の出身地である宇部市のお酒「貴」もとてもおいしく、おすすめです。そのほかにも様々な酒蔵、お酒の銘柄があり、山口の地酒は国内外で高い評価をいただいております。
また、今年1月にはニューヨークタイムズが発表した「2024年に行くべき52か所」に日本で唯一山口市が選ばれました。観光公害の少ないコンパクトシティであることなどが評価され掲載に至ったわけですが、山口の高いポテンシャルを裏付ける象徴的なニュースで、大変光栄に思っています。山口県は、交通アクセスの良さも魅力であり、西部の「山口宇部空港」、東部の「岩国錦帯橋空港」の2つがあり、羽田空港から約90分で山口入りすることができます。また、地域によっては、隣県である島根県の「萩・石見空港」や福岡県の「北九州空港」も近くとても便利です。
このほかにも山口県には企業活動に欠かせない事業メリットがたくさんあります。今日は実際に山口県で操業する企業にも御登場いただき、どのような事業メリットがあるのか、なぜ企業が山口県に集まってきているのか、その理由を掘り下げてまいります。今日は本県の持つポテンシャルを体験していただき、皆様のあらたな事業拠点として山口県をご検討いただければと思っています。
日立ハイテクの事業
- 原
- 村岡知事ありがとうございました。事業拠点としての山口県の魅力についてどういったものがあるかのこれから検証していきたいと思います。まず、山口県で実際に拠点を構えているお二方にどのような事業を行っているのか、お話ししていただきます。まずは、日立ハイテクの小室さん、お願いします。

- 小室
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まずは会社概要から説明します。本社は虎ノ門で2023年度の売上収益6704億円。従業員数は、全世界で連結で14,746名、単独で6,422名です。1947年に日製産業が誕生し、2001年に日立製作所の計測器事業部・半導体製造装置事業が統合し、日立ハイテクノロジーズが誕生しました。2020年に新しい企業ビジョン「ハイテクプロセスをシンプルに」を制定しお客様のハイテクプロセス、つまり高度な業務や難しい作業を、我々の装置やソリューションを使ってシンプルにさせるということを目指しています。それに合わせて、企業名もシンプルに「日立ハイテク」としました。今年度には、日立製作所のヘルスケア事業本部を統合し、診断から治療まで事業領域を拡大しています。
代表的な製品としては血液の自動分析装置、汎用の電子顕微鏡、半導体製造工場で使用される装置があります。半導体関連では測長SEMと言われる半導体のパターンの寸法計測に特化した装置や、パターンを加工するエッチング装置を製造しています。そしてこのエッチング装置は山口で生産しています。
山口県下松市に位置する日立ハイテク笠戸地区は、新幹線などの車両製造を行う日立製作所笠戸事業所内にあります。笠戸地区では、生産キャパを拡大する必要があったことから、現在新しい製造棟を建設しており2025年4月から生産を開始する計画です。DX化、自動化によるスマートファクトリー化を進め、省エネ機器採用や、太陽光発電システムによる創エネで、2010年比60%削減を目指す予定です。
セントラル硝子の事業

- 原
- 小室さん、ありがとうございました。続いて、セントラル硝子の前田さん、事業内容の説明をお願いします。
- 前田
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当社は1936年に、山口県宇部市で創業いたしました。
当時、国内での化学製品の工業化が強く求められていた時代で、宇部市の市長も務めた国吉信義が、郷土の発展も視野に、当社の前身である「宇部曹達工業株式会社」を設立したのがルーツです。 当初、ソーダ灰を中心とした化学事業でスタートしましたが、その後、肥料やガラス、ガラス繊維と事業領域を拡大して来ました。
1963年には、今の「セントラル硝子」に社名変更しましたが、化学事業も並行し事業拡大と研究開発の強化を進めたことで、当社の強みである「フッ素化技術」が確立され、それを応用した「ファインケミカル製品」が、現在当社を支える中心的事業になっています。
代表的な製品である医療化学事業における「全身吸入麻酔薬」は、30年以上世界のトップシェアを誇っています。またエネルギー材料事業では、電気自動車向けを中心とした「リチウムイオン二次電池電解液」も主力製品の一つです。 そして今、当社が最も注力しかつ成長事業と位置付けているのは、「半導体材料」を中心とした電子材料事業です。微細化・集積化が進む先端半導体の製造に欠かせないエッチングガスの開発技術は、当社のストロングポイントであり、これらをグローバルに半導体メーカーに提供しております。いずれもフッ素化技術を活かした自社開発製品であり、高機能というだけではなく環境負荷が少ないという特徴も備えており、カーボンニュートラルにも大いに貢献する製品群です。
山口での事業メリット
- 原
- ありがとうございます。2社とも古くから山口県で事業展開されていますが、どうして山口だったのか、その理由を教えていただけますか?小室さんからお願いします。
- 小室
-
私達の歴史は、1921年に山口県で日立製作所の笠戸工場設立から始まりました。最初は蒸気機関車の製造から開始しましたが、その後間もなく電車の製造に移行しました。蒸気機関車のボイラー製造には真空を作る高度な溶接技術が必要でしたが、その技術は電車の製造にも活かされ、さらにはエッチング装置のチャンバー製造に活かされました。車両とエッチング装置は全く異なる製品ですが、溶接という技術でつながっています。エッチング装置は1980年に製品化されましたが、このときは、電車の部品を製造するサプライヤにも協力して頂き製品化にこぎつけました。ちなみに現地で100年以上事業を続けていますが、大きな災害には遭遇していません。比較的安全な地域であることも山口県の魅力です。
最新のエッチング装置は、3万点以上のパーツから構成されています。日立ハイテクだけでこれらのすべてのパーツを作ることはできませんので、海外などを含めまして100社以上と協力しています。また、地域の優秀なパートナー企業とも連携を行っています。たとえば、山下工業さんは、車両の部品を納める会社でしたが、エッチング装置の製造においても協力して頂き、40年以上経過した現在でも、電車の部品とエッチング装置の部品を提供してくれています。私たちは、山口に深く根付いていますので、今から山口以外に出ていくことは考えられません。
また台湾、韓国、中国には、大きな半導体メーカーが存在しますが、この地域に近いという点も山口県の魅力です。半導体製造装置はお客様とのコラボレーションが必要になるので、お客様のところに頻繁に出張することになります。そのため、近いということは大きな魅力になります。輸出においても非常にメリットがあります。たとえば、世界的に有名な韓国のメモリメーカーへは、下関から船便で4日で届けています。2.5トンもの装置を通関も含めて4日で届けられるのは大きな魅力です。
従業員に山口県をどのように思っているかを聞いてみたところ、職場と住居が近い、渋滞も少なく車移動が便利、自然が豊かで子育て環境も良いなどの声が上がっています。山口県下松市は『住みよさランキング2024』で全国812市区中31位にランクインしました。山口県内では1位、中四国では4位となる順位です。下松市だけでなく瀬戸内海沿岸は似たような状況ではないかと思います。瀬戸内海に面し、山も近く、釣りや、ハイキング、自転車などを趣味として楽しむのにもよいでしょうし、自然が豊かで子育て環境としてもよいのが、この地域の魅力だと思います。 - 原
- 小室さん、ありがとうございました。では、前田さん、山口県で事業を続ける理由、メリットなどを教えてください。
- 前田
- まず、宇部工場が面している宇部港の物流面でのメリットについてです。宇部港は、古くからこの地域で産出される石炭、石灰石などの積出港として発展してきました。1951年には重要港湾に指定され、現在でも化学工業製品、原燃料などを扱う瀬戸内海工業地帯の工業港として重要な役割を担っており、当社でも製品の出荷や原燃料の荷揚げに活用しています。また交通面も便利です。出張の機会も多くありますが、車で約10分の距離に山口宇部空港があり、東京地区まで2時間程度で移動可能なため、非常に利便性が良いと感じています。また新幹線が停車する新山口駅までは、山口宇部道路を利用することで約30分でアクセス可能であり、関西方面や半導体企業の誘致で注目されている九州への出張も容易です。人材面では大学から高校まで工業系人材が豊富であることもメリットと考えております。宇部工場ではプラントを操業するために大勢のオペレーターが必要となります。当社にも地元から毎年入社していただいていますが、真面目で努力を惜しまないという県民性により、皆さん工場の最前線で活躍されています。山口県からは県外キャリア人材確保応援事業など、採用へのバックアップを頂いております。

- 原
- 前田さん、ありがとうございました。日立ハイテクさんは、事業メリットとして、歴史に裏打ちされた産業インフラ、そして災害の少ない立地環境、さらにアジアに近い立地に加えて住みやすさも挙げていただきました。そしてセントラル硝子さんは整備された港湾交通の利便性と優秀な人材を挙げていただきました。村岡知事にこれらの事業メリットについて詳しく説明していただきます。
蓄積された産業インフラ
- 村岡
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山口県は本州の最西端で韓国や中国をはじめとする東アジアに本州で最も近く、東京と上海がほぼ同距離に位置しています。そのため、東アジアを見据えたグローバルな事業展開を視野に入れた企業の皆様に西日本の生産拠点として選ばれています。山口県では、古くから石炭産業が栄え、その後、化学やセメント、石油化学産業が瀬戸内海側に集積し、日本初のコンビナートが形成されました。昭和50年代以降は加工組立型産業も主要な産業の一つとなっています。西部地域では、美祢市の秋吉台を取り巻く周辺地域から産出する石灰石を原材料とするセメント製造工場が立地し、東部地域では、ソーダなど化学製品を生産する基礎素材型産業が集中しています。
山口県は鉄鋼、石油、化学製品などの基礎素材型産業に加えて、輸送用機械の製造も盛んです。自動車の「マツダ」、鉄道車両の「日立製作所」、造船の「三菱重工業」など、大手輸送用機械メーカーがそろい、その周辺に関連産業が集積しています。特に自動車は中国・九州エリアだけで280万台/年以上が生産され、日本の約3割を超える一大自動車産業集積地を形成し、地理的には本県がその中心に位置しています。さらに近年では医療関連の進出がめざましく、医薬品、医療機器メーカーの設備投資が相次いでおり、令和元年度の原薬出荷額は全国1位となっています。
古くからの企業集積の結果として、山口県には港湾や交通網、工業用水など他県にはない産業インフラが備わっています。セントラル硝子さんが指摘された港湾ですが、東アジアのゲートウェイとして、徳山下松港と下関港の2つの国際拠点港湾、そして4つの重要港湾を有しています。自動車関連、石油化学関連製品の取り扱いも多いなど、製品や原材料の大量輸送には非常に適しています。海上輸送は企業活動を支える重要な輸送手段の一つであり、本県は瀬戸内沿岸の東から西まで、こうした6カ所の優れた港湾を有しています。
また山口は本州と九州の結節点であり、充実した道路網を有しています。東西に走る中国自動車道、山陽自動車道、整備中の山陰道の3本の高速道路をはじめ、県内でのアクセスとしては、山口宇部道路や国道2号小郡バイパスなど、高規格道路や自動車専用道路が整備されています。加えて一般道との充実したネットワークにより、県内移動はもとより、中国圏域や九州圏域への移動も大変便利で、高速交通体系が必要とされる物流面においては非常に優位にあり、本県が誇るインフラの一つです。TSMCの進出で盛り上がる熊本へも、下関から車で2時間40分、新幹線なら新下関駅ー熊本駅間は約1時間36分で移動できます。
日本一の工業用水
- 村岡
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「産業の血液」といわれる工業用水についてですが、こちらも企業の生産活動に欠かすことのできない重要な産業インフラの一つです。山口では県が工業用水道事業を行っていますが、県として工業用水道事業を始めたのは、実は山口県が全国で最初なのです。
山口県の工業用水には3つの特徴があります。「たっぷり!」「きれい!」「安い!」です。まず「たっぷり」、豊富な給水能力です。県全体で173万トンの給水能力を有しており、これは全国第1位です。二つ目「きれい」、水質の良さです。工業用水のもととなる山口県の河川などの水は、全て環境省の基準 (「生活環境の保全に関する基準」)で上水道並みのAA~B類型に指定されています。三つ目「安い」、料金の安さです。平均すると全国で5番目の安さです。中国山地の勾配を利用して水を供給しているので送水費を安く抑えられており、全国平均単価の約半額で提供しています。さらに、これらに加えて、工業用水の利用を後押しする手厚い3つのサポート制度を用意しています。引込管、受水設備、水処理設備の設置支援です。初期投資費用の負担軽減になると思いますので、是非ご活用ください。

- 前田
- 工業用水ですが、工場の操業には欠かせない、必要不可欠なものです。当社は、年間2百万立方メートル以上の供給を受けており、主にプラント設備の冷却水や洗浄用、排ガスの無害化などに使用しています。宇部地区には厚東川ダムと、宇部丸山ダムがあり、貯水量は合わせて約27百万立方メートル、工業用水は一日約50万立方メートルの供給量が確保されています。このような恵まれた環境により、宇部工場の各プラントを安定的に操業できております。
- 原
- ありがとうございます。近年は各地で大規模な災害が発生していますが山口県での災害のリスクについてはいかがでしょうか。
- 村岡
- 自然災害の少なさも企業が集まる理由となっています。地震は観測記録の残る1918年以降、全国3位の少なさで、震度6弱以上の揺れは1度もありません。また、津波のリスクが低い、台風被害も少ないなど、安定した企業活動が展開でき、リスク分散の観点からも優れているということが言えます。
豊富な理工系人材
- 村岡
-
こうした産業インフラに加え、事業活動を支える豊富な理工系人材を輩出していることも大きなメリットです。
山口県は理工系の教育機関が充実しています。大学・短大は5校10学科、専門学校は2校4学科あります。高等専門学校は3校5学科あり、1県3校の高専というのは北海道に次ぐ2番目の多さです。また近年では情報系教育にも力を注いでいます。山口大学では全国の大学に先駆けてデータサイエンス教育を全学必修化。山口東京理科大学では数理情報科学科(令和5年度)、下関市立大学ではデータサイエンス学部新設(令和6年度)、周南公立大学では情報科学部(令和6年度)が開設され 、山口県立大学では情報社会学科(令和7年度)が開設予定です。 - 小室
- 日立ハイテクでも、山口県内の大学や高専などから、毎年多くの新入社員を採用させて頂いています。設計部門には現在500名程の人員がおりますが、1/3は山口県内の大学や高専卒の方です。山口の3つの高専卒の方は8%程で、来年は3名の方が入社する予定です。工学系人材の採用に有利であると感じます。知事から説明があったように、山口県内で情報系の学科が増えているということですが、データサイエンティストを採用するのが非常に難しくなっていますので、地元の大学でデータサイエンスを学んだ学生が多数排出されるのは、県内の企業の今後の成長に大きく貢献すると思います。
将来展望
- 原
- ここまでパネルディスカッションの前半では、山口県の持つ事業メリットを探ってきました。アジアに近い立地、そして人材育成にも力を注いでいるということで、2つの会社の実際に感じているメリットを伺ってきました。ここからのパートでは、山口県の産業のこれからをテーマにして話し合っていきたいと思います。まずは日立ハイテクさんとセントラル硝子さんにこれからの事業の計画、そしてこんなビジネスパートナーを求めているという要望を聞かせていただければと思います。では、まずは前田さん、お願いいたします。
- 前田
-
当社は本年5月に発表したVISION2030において、事業戦略の2本柱として「スペシャリティ製品の拡大」と「エッセンシャル製品の強化」に取り組むと宣言しました。先ほどご紹介した半導体関連分野は「スペシャリティ製品の拡大」に資する事業分野です。更に、電子材料事業については「先端半導体材料、パワー半導体領域にフォーカス」していくと宣言していますが、シリコン半導体向けの材料だけでなく、EVなどの将来に必須とされるパワー半導体向けのSiCウエハーの開発も宇部の研究所で実施しています。2028年を目途に宇部工場内で製造を開始し、国内外のお客様への供給を計画しています。
またライフサイエンス分野では再生医療に関わる「他家“凍結保管”繊維芽細胞シート」の研究開発や歯肉由来の他家線維芽細胞シートの量産化、再生医療等製品の製造販売を目指して検討を進めています。本研究は、山口大学医学部との共同研究であり、2024年9月1日より同大学内に共同研究講座を開設し、より本格的な研究開発を開始しております。また、この開発にあたっては、山口県と宇部市の補助金事業にも採択いただきました。
今後求めるビジネスパートナーとしては半導体関連の事業では清浄度を担保できる製造設備や、高精度の分析装置、パッケージ技術が必須となりますので、そのような技術を持たれる企業に進出していただけたらと考えています。そのためにも、山口県への進出を促すような助成金や税制優遇などのインセンティブも是非、ご検討いただけたらと考えています。 - 原
- 前田さん、ありがとうございました。大学との共同研究も進められ、再生医療の実現も楽しみですね。続いて、日立ハイテクの小室さん。山口県での新たな工場も稼働するというお話がありましたが、その先どういう風になりそうでしょうか。

- 小室
-
今、生成AIが注目されています。現在の半導体市場は5500億ドル程度ですが、2030年には1兆ドルに、約2倍に成長すると予想されています。単純に考えると半導体製造装置も2倍必要になります。私たちは、2030年を想定して、新しい工場の建設を進めています。パートナーの皆様と協力し、全世界に私どもの装置を納めて行きたいと考えています。一方、災害などに対するレジリエンス向上も企業にとって重要だと考えています。私たちのもうひとつの主力工場である茨城県の那珂地区は、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受け、生産を再開するだけで2カ月、完全復旧までには半年以上かかりました。このとき、サプライチェーンを含めたBCP対策の重要さを痛感しました。知事からも説明のあったように山口県は災害の少ない地域です。今までは笠戸地区ではエッチング装置のみを生産してきましたが、今後はエッチング装置以外の装置の生産も行いたいと考えています。それと同時に山口県内のサプライヤの開拓も行い、災害に対するレジリエンスを高めたいと考えています。
半導体製造装置の設計や製造には高度な技術力が必要で、それに対応できる優秀な人材が必要になります。県には、継続的な人材育成の強化をお願いしたいと思いますし、日立ハイテクとしても、産官学の連携、大学や高専での出前講座、インターンシップなどを通して人材育成に貢献したいと考えています。若い人たちが、夢を持って働ける、働きやすい・子育てしやすい環境の整備をお願いしたいと思います。そういった施策と企業の努力により、魅力的な働き方ができる企業が増え、そのような会社で働きたいという若い人が山口の企業に入社するという好循環が生まれたらすばらしいと思います。 - 原
- ありがとうございました。さて、村岡知事、お2方から将来の展望を伺いましたが、山口県としてはどのような方法で産業振興を進めていくのでしょうか。知事のお考えの将来像と今取り組んでいる政策についてお話しください。
- 村岡
-
県の総合計画である「やまぐち未来維新プラン」に「時代を勝ち抜く産業力強化プロジェクト」を掲げ、戦略的な企業誘致や産業基盤の整備等の取組を積極的に推進するとともに、分野別計画である「やまぐち産業イノベーション戦略」に、半導体・蓄電池分野を重点成長分野へ追加するなど、半導体企業の集積を目指しているところです。また、本県には半導体製造企業の立地はないものの、半導体関連企業が多数立地しております。さらに、山口県と九州は生活圏・経済圏ともに密接な関係にあります。特に、物理的な距離の近さに関しては大きなメリットがあります。山口県は、拡大を続ける九州の半導体産業の需要に対応することのできる高いポテンシャルを秘めた、産業立地に最適な場所であると考えています。
本県では、半導体企業の集積のため様々なサポート体制を整えています。昨年8月には、産学官が連携した「やまぐち半導体・蓄電池産業ネットワーク協議会」を設立しました。本協議会は、先端技術や市場動向等の情報共有、情報交換等の場の創出、企業間や産学公連携による新たな研究開発、企業誘致の推進、人材の育成等を図ることにより、本県における半導体・蓄電池関連産業の集積を目指すことを目的としています。
また、社会全体のデジタル化やカーボンニュートラルをはじめとするグリーン化の進展など、現在は産業構造の変革期にあるとともに、医療分野における生産体制強化に向けた動きなど、国内での設備投資が活発化しています。これらの分野は、県内のコンビナート企業や素材メーカー等との親和性が高いことに加え、今後更なる市場の拡大が見込まれています。このような状況を企業誘致の絶好の機会と捉え、激化する地域間競争に打ち勝ち、本県経済の持続的な発展や産業力の一層の強化を図るため、蓄電池・半導体・医療といった成長分野の企業を対象に、最大補助額50億円といった、これまでにない強力な支援制度を創設しました。こうした立地についての支援や、新しい分野、新たな研究開発についても、県としてしっかりコミットして支援をしていきたいと思っています。

- 原
- 村岡知事ありがとうございました。パネルディスカッションでは、山口県に企業が集まっている理由を皆さんで探り合いながら、さらにこれからの展望についても語り合うことができました。最後に、進出を検討している経営者の方に一言ずつメッセージをお願いします。
- 小室
- 半導体は今後も継続的に成長する産業です。まずは、1社でも多くの半導体関連企業が山口に進出することを期待しています。そして、関連企業で力を合わせ、世界に挑戦していきたいと思います。お困りごとや成長に向けた提案がございましたら遠慮なく私共へご相談ください。
- 前田
- 山口県は、交通インフラや工業用水、工業系人材が充実しており、我々のような製造業にとっては、非常に運営しやすい地域だと思います。また、村岡知事の紹介にありましたように、日本海、瀬戸内海、響灘の海の幸を味わうこともでき、美味しい日本酒も数多くあります。今日、来場、視聴されている企業の皆さまの中から、一社でも多く山口県の地に進出していただけることを心よりお待ちしております。

- 村岡
- 山口は工業の集積が、歴史的にも進んでいる地域ですし、これからに向けても非常に発展可能性のある地域だと思っています。交通インフラも充実し、工業用水も非常に優れたものがあります。また人材についても産業人材の育成に力を入れて取り組んでいるところです。こうした優れた点を活かして、これからの山口県の産業の発展にさらに力を入れて、これからの事業展開のお役立て役に立てることがたくさんあるのではないかと思っています。立地のサポート、アフターフォローもしっかりさせていただきますのでぜひ山口県にご相談いただきたいというふうに思います。山口県の立地についてご検討いただければ幸いです。今日はどうもありがとうございました。